日本の伝統産業ってどんなものがあるの? 伝統産業の現状や発展に必要なこと

「伝統産業と地場産業の違いってなんだろう?」

「伝統工芸や伝統文化との線引きって?」

「伝統産業を続けていくために、今我々の世代では何が必要なんだろう?」

 

そのように考えていらっしゃる自治体職員の方は少なくないのではないでしょうか?地域に関係の深い産業を表す言葉として伝統産業や地場産業などの言葉がありますが、いざ明確な違いを聞かれると答えるのが難しいですよね。

 

この記事では、伝統産業とは何か、地場産業との違いは何かについて触れながら、日本各地の伝統産業を紹介します。その上で伝統産業が発展していくために必要な対策や取組をまとめました。



伝統産業とは?

伝統産業とは、古くから受け継がれてきた伝統的な技術や技法を使って、日本の文化や生活に根ざしたものを生み出す産業を指します。

 

詳しくは後述しますが、伝統産業の例えとしては京都の西陣織、京人形や岩手の南部鉄器、石川の九谷焼などが挙げられます。
 



伝統産業と地場産業の違い

伝統産業という言葉と一緒によく聞く地場産業。

 

その違いを簡単に説明すると、現代においても生活で使用する伝統工芸品を生み出すのが伝統産業で、特定地域で地理的条件を活かして産地集団を形成している、地方的色彩の強い産業が地場産業です。

 

地場産業の中に、伝統産業となっているものも包括されるイメージです。

 

伝統工芸品は、その地域から産出される素材を元に伝統的な技術で作られてきたもので、「伝統工芸品産業の振興に関する法律」で下記のように規定されています。

 

● 主として日常生活で使われるもの

● 製造過程の主要な部分が手工業的(手作り)であること

● 伝統的技術または技法によって製造されたもの

● 伝統的な原材料を使用しているもの

● 一定地域で製造されているもの

 

上記5つを満たした上で、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を指します。

 

伝統工芸品はその地域に住む人の生活と密接な関係があり、その地域で取れる素材をその地域の気候風土や地形などから生活の知恵をもとに作られ、地域文化として継承されてきました。

 

ちなみに伝統文化は、能や三味線、俳句、歌舞伎などの日本の古くからの文化や芸能を指しています。
 



日本の伝統産業の紹介

では具体的な伝統産業の例について、地方ごとに見ていきましょう。
 


北海道

二風谷アットゥㇱ

北海道沙流郡平取町(ほっかいどうさるぐんびらとりちょう)で作られている織物。

二風谷(にぶた)はアイヌ語で「木の生い茂るところ」という意味の「ニプタイ」からついた地名で、アイヌ文化を大切にする人々が伝統を守りながら工芸品を作っています。
 

二風谷イタ

二風谷イタは、北海道沙流郡平取町(ほっかいどうさるぐんびらとりちょう)で作られている木彫りのお盆。

柄が特徴的で、渦巻型やとげ状の文様など複数種類の文様が組み合わされて美しい文様を編みだします。アイヌの人々の暮らしの中での作品は日用品、現在は現代作家による緻密な工芸品として続いています。二風谷アットゥㇱと一緒に北海道で初めて経済産業省の「伝統的工芸品」に指定されました。
 


東北

南部鉄器

南部鉄器は、岩手県盛岡市周辺で作られている金工品。

江戸時代中期に生まれた伝統工芸品で、南部藩で作られていたので「南部鉄器」と名前が付けられました。南部鉄器は熱が均一に伝わること、保温性に優れていることや、さびにくいので長持ちすることなどが特徴。鉄器ならではの安定感と重量があり、素朴な美しさが魅力的です。
 

津軽塗

津軽塗は、青森県弘前市周辺で作られている漆器。

丈夫で実用性が高い一方、外見がとても優美なのが特徴です。「研ぎ出し変わり塗り」という技法が使われており、幾重にも重なった色漆の美しい模様が素敵です。
 


関東

江戸切子

東京都で作られるガラス工芸品。

青色や赤色などのガラスに細工を入れたもので、華やかで独特なカットが施されています。
 

箱根寄木細工(はこねよせぎざいく)

神奈川県にある箱根山の豊富な樹種を活かした木工品。

木の色の違いを活かした幾何学模様が特徴で、その数は50種を超えると言われています。
 


中部

越後三条打刃物

越後三条打刃物(えちごさんじょううちはもの)は、新潟県三条市で作られている打刃物。

金属を叩いて製造する刃物で、高温の金属を金型で叩いて形を整える、高度な鍛造(たんぞう)技術が特徴で、強度が高く摩耗しにくいという性質があります。
 

美濃焼

岐阜県の東濃地方で作られている焼き物。

1つの様式を持たず、15種類が伝統工芸品として指定されるほど多様な種類があることが特徴です。
 


近畿

京友禅

京友禅は、京都府一帯で作られる染織品。

豊かな色彩と、絵画的に動物や器物を表現する友禅模様と呼ばれる文様に特徴があります。
 

播州毛鉤

播州毛鉤(ばんしゅうけばり)は、兵庫県西脇市周辺で作られている釣りに使用される擬餌鉤(ぎじばり)です。


1cmほどの小さな鉤(かぎ)に鳥の羽が絹糸で巻かれ、金箔や漆(うるし)などの装飾によって、本物の水中昆虫であるかのごとく精巧な作りが特徴。
魚の種類や水深・水質などの自然環境に合わせて作られ、その種類は500種以上にものぼります。
 


中国・四国

大谷焼

大谷焼(おおたにやき)は、徳島県鳴門市大麻町の名産品で、徳島県を代表する陶器。

「寝ろくろ」に代表される独特の製法が特徴で、地元「大麻町萩原」で採取される「萩原粘土」が使用されています。
 

丸亀うちわ

丸亀うちわは、香川県丸亀市周辺で作られているうちわ。

江戸時代初期に四国の金毘羅参り(こんぴらまいり)の土産として考案されました。丸柄と平柄の両方があり、国内のうちわ生産量の多くを占めています。
 


九州

三線

三線(さんしん)は、沖縄県那覇市などで生産されている楽器。

素朴な音色はさまざまな音楽シーンに欠かせない存在です。三線作りには繊細な職人技が求められ、原木選びから数十年かけて仕上げることも珍しくないそうです。蛇皮が使われていることも特徴です。
 

八女提灯

八女提灯(やめちょうちん)は、福岡県八女市周辺で作られている提灯。

一本の細い竹ヒゴを、提灯の型に沿って螺旋状(らせんじょう)に巻く「一条螺旋式」と花鳥や草木の美しい彩色画が施された「火袋(ひぶくろ)」が特徴です。幻想的な光に浮かぶ花鳥草木の美しい装飾が素敵です。
 


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伝統産業の現状と、発展に必要なこと

日本各地には非常に多種多様な伝統産業が根付いていますが、後継者不足や儲からないなどの理由で伝統が継承されないことが危惧されています。
日本文化の象徴ともいえる伝統産業を絶やさないために必要なことは何なのでしょうか。

 

まず伝統産業の現状から見ていきましょう。
 


伝統産業の現状

※出典:四季の美(https://shikinobi.com/traditionalcrafts-info)
数値出典:(財)伝統的工芸品産業振興協会 ※平成18年度以降の企業数不明
 

1984年(昭和59年)に伝統工芸品の生産額がピークを迎え、減少の一途をたどっています。

 

また、株式会社日本政策投資銀行と株式会社日本経済研究所の地域伝統ものづくり産業の活性化調査によると、従業員数も1979年の28.8万人がピークで、2013年には6.5万人にまで減少しており、約5分の1ほどになってしまっています。
 


発展に必要なこと

ではどうすれば衰退せず発展していけるのでしょうか。
問題解決の糸口を見つけるために各自治体の取組を見ていきましょう。
 

□京都市の事例

長い間日本の中心であった京都は伝統産業が非常に盛んな地域。
京都市では、伝統産業の活性化を推進することによって京都の経済を発展させるため、「京都市伝統産業活性化推進条例」を制定しています。

 

また、「春分の日」を「伝統産業の日」として定め、毎年この日を中心に年間を通じて、岡崎・東山、西陣など市内各地で多種多様なイベントを実施。
「匠の技」の魅力を国内外に発信するため、イベント情報は京都観光Naviでも発信するなど積極的に外へ情報を放っています。

 

発信でいうと、「TikTok」とコラボレーションして京都の伝統産業の魅力をお伝えする「GoToアート〜TikTok LIVEで巡る京都伝統産業ミュージアム」を実施するなど、若年層へも伝統産業の魅力が届くような仕組みを作っています。
 

□福井県の事例

福井県では「伝統工芸×アイドル」というまったく新しい形のアイドルが誕生しています。越前漆器や若狭塗箸、越前打刃物など全国屈指の伝統工芸品の産地である福井県。

 

アイドルをきっかけに若い世代にも伝統産業の魅力が伝わり、後継者誕生に繋がる可能性があります。福井に貢献しながら、自身を輝かせる新しい形の芸能活動の職業で、若年層の関心を喚起しています。

 

2つの事例から分かることは、

 

● 後継者不足

● 伝統産業の衰退

 

などの課題があったときに、どのように解決していくかは「新しい切り口」と「斬新な掛け合わせ」によって切り開いていける可能性があるのではないかといえそうです。

 

後継者を担ってくれる可能性がある若い世代にいかにその素晴らしさを伝えるか。発信媒体を若年層が使っているものにしたり、アイドルと掛け合わせてみたり、積極的に掛け合わせができないかを探ってみることが課題解決の糸口かと感じます。

まとめ


地域に根ざした産業の魅力には意外と気が付かないもの。

 

自分たちの地域を衰退させないためには伝統も守っていかなければなりません。後継者が不足しているのであれば、若年層への伝統産業の魅力を訴えることが必要で、その手段としてさまざまな媒体を使って発信していくことで目に留まりやすくなります。

 

伝統産業を今までとは違うやり方や切り口で訴求することによって、新しい人たちに興味や関心を持ってもらうきっかけになるのではないでしょうか?



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