GIGAスクール構想の目的と現状。課題や今後の方向性について。

Society5.0時代を生きる子どもたちにとって、PCやスマートフォンなどは生活の中で必須アイテム。
教育現場でICTを活用することによって、子ども一人ひとりに合った学習ができるようになり、よりいっそう個性や能力を伸ばすことができるようになります。

 

学校でのICT環境整備状況が脆弱であることを踏まえ、政府で実現しようと試みているのがGIGAスクール構想。

 

今回の記事ではGIGAスクール構想について、概要や目的、現状や課題などについてまとめました。



1.GIGAスクール構想とは

2019年12月の令和元年度補正予算案に、児童生徒向けの1人1台端末と高速大容量ネットワークを一体的に整備するための経費が盛り込まれました。
これらを整備することによって、多種多様で個性あふれる子どもたちを1人として取り残さず公正に個別最適化された、能力と資質を引き出して育成する教育ICT環境を実現させるのがGIGAスクール構想です。

 

GIGAスクール構想のGIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字をとっていて、すべての人のためにグローバルで革新的な入り口を、という意味。今までの教育実践での蓄積とICTを掛け合わせることによって、子どもたちの学習活動がより一層充実し、主体的で学びが深くなります。

 

国はGIGAスクール構想を実現するために、都道府県や市区町村などの自治体、学校法人などに対して以下の2つ補助をしています。

 

① 校内通信ネットワークの整備

② 児童生徒1人1台端末の整備

 

①では、希望するすべての小・中・特別支援・高等学校などにおける校内LAN環境の整備と電源キャビネットの整備に対して公立と私立には2分の1の補助割合、国立に対しては定額での補助をしています。

 

②では、児童生徒1人1台端末の整備のために児童生徒が使用するPC端末を整備するために公立と国立には上限4.5万円として定額、私立には同じく上限4.5万円として2分の1の補助割合で支援しています。

 

授業内では、検索サイトを活用した“調べ学習”で子どもたちが主体的に情報を選択したり、文章作成ソフトやプレゼンソフトを利用してリアルタイムで考えを共有しながら学び合いをしたりしています。

 

各科目では、例えば算数や数学だと、画面上に二次関数のグラフの式の値を変化させて動かしながら二次関数の特徴を考察したり、外国語だと海外の子どもとつながり外国語で交流や議論を行ったり、スピーキングの音声認識機能やライティングの自動添削機能を使うことでアウトプットの質を高めることに貢献しています。
 



2.GIGAスクール構想の前倒し

黒板とチョークで教えていた一斉学習から、より子ども一人ひとりに合わせた個別学習へとなっていくGIGAスクール構想ですが、当初は5年計画で少しずつ進めていく予定でした。

 

しかし、新型コロナウイルスの影響で休校となった学校も多く、学習をストップせざるを得ない状況になりました。そこで、いつどのような状況になっても学びを止めないために、GIGAスクール構想を前倒しすることに。その為、端末整備等に関わる予算が令和元年度補正予算と2年度補正予算に計上されています。

 

もともとプログラミング学習がメインの目玉となっていたGIGAスクール構想ですが、新型コロナウイルスによる学校休業対策として経済産業省は「#学びを止めない未来の教室」プロジェクトを2020年3月に始動。

 

学校が休みになってしまっても自宅で学習できる、という役割も期待されるようになりました。
 



3.GIGAスクール構想における課題とは?

整備を進めるGIGAスクール構想ですが、もちろん課題もあります。現時点での主だった課題は以下の2つが挙げられるのではないでしょうか。

 

●  家庭への端末持ち帰りについて

●  教員側のITリテラシーの向上が必須

 

それぞれ詳しく見ていきましょう。
 


3-1.家庭への端末持ち帰りについて

課題の1つとして、配布する学習端末の家庭への持ち帰り問題があります。
自宅で子供たちが自らタブレットやPCなどを活用して勉強ができるのは素晴らしい環境ではありますが、管理面からすると持ち帰るのは危険な側面も。

 

例えば、端末の破損。

 

自治体や学校によっては、自宅に持って帰って端末が破損した場合、故意・過失問わず保護者の負担になってしまうところもあります。自治体としては予算も少ない中でできるだけコストの削減をしなければなりませんが、端末に対する壊れてしまったときの補償を付けておいた方が、金銭面で保護者と揉めるリスクは少ないでしょう。補償するための費用は保険会社やサービスで異なりますが、1台につき300円/月や、年間で1,500円などが目安になるようです。

 

また、通信環境が整っていない家庭へのサポートも考えなくてはいけません。自治体や学校によっては、モバイルWi-Fiルーターを無料で貸し出しているけれど、通信費の支払いやSIMカード契約などは各家庭で行うケースも。そして、回線速度などの通信環境が悪くなってしまって自宅学習や宿題ができなかったというケースが起きる可能性も大いにあります。

 

他にも、学習以外に端末を使ってしまうリスクもあります。

例えば子どもたちの間でも大人気のYouTube。無料で見られて誰でもアクセスができるので、保護者の立場からするとヒヤヒヤするもの。長時間にわたってYouTubeを見続けてしまい、本来の学習に使うという目的以外に用途が変わってしまっていたり、アダルト系のコンテンツへアクセスしてしまっていたりというようなことが起こりうるのです。

 

さまざまな方面からのリスクをはらんでいる端末持ち帰り問題。今後の課題となっています。
 


3-2.教員側のITリテラシー

教員の中にはPCやタブレットなどのIT機器に慣れていない方も多いです。教員側の端末は、今回のGIGAスクール構想の前に調達された機器もあり、新しく導入した生徒用の機器と使い勝手が違ったりOSが違うので使い方で混乱してしまうことも。

 

学習を効率よく一人ひとりに合った学習をするのが目的なのにもかかわらず、端末操作に慣れていないため、逆に時間がかかってしまうこともあるでしょう。

 

教員側も少しずつIT機器に慣れる必要があります。また、整備された環境を最大限活かすために、どの授業でどのようにうまく使って……と考え、準備することも非常に労力が必要となります。普段の業務だけでも大変ですが、加えて新しい環境になるので現場で頑張っている教員が非常に苦労しているのが現状です。

 

教員側のITリテラシーの向上と、業務の効率化による教員の負担軽減が今後も引き続き課題。

 

現在、この課題に対する取組としては、

 

●  ICT活用アドバイザーによるワークショップや説明会

●  ICT支援員を整備

 

などがあり、民間企業の外部人材でICTのスペシャリストから学ぶことで、少しずつ課題を潰していっている学校が多いのではないでしょうか。



4.まとめ

GIGAスクール構想は、「Global and Innovation Gateway for All」の略称で、子どもたちの能力や資質を最大限に引き出すために教育現場でICTを活用する取組のこと。

 

学校教育において、授業内での一人ひとりの学習理解度は違います。できるだけ一人ひとりに合わせたいのは山々ですが、中々そうもいかないのが現状。しかし、1人1台の端末があることで、個人に合わせた学習内容や進め方で学べることが可能になってきます。

 

家庭への端末持ち帰り問題や、教員側のITリテラシーの向上、業務負担軽減などさまざまな課題はありますが、それ以上に教育環境の抜本的な改革としてより質を高めていきたいところです。




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