「Society5.0」、自治体は何をすべきか(前編)

今回の特別インタビューは、日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長で、元総務大臣の増田寛也氏に「Society5.0」についてお伺いをさせていただきました。
この記事を通して、自治体が果たすべき役割や、各々がどのような行動を起こすべきか、そういった観点の情報を前編と後編の二回に分けてお届けしていきます。



デジタル技術を活用したスマート社会、Society5.0とは?

まず最初に、デジタル技術を活用したスマート社会Society5.0について、具体的にはどのような社会を目指しているかというところを教えていただけますでしょうか?

 

[増田氏]
世の中には溢れている膨大なデータがあって、今まで特に自治体レベルあるいは地域レベルで見ると殆ど使われてないようなデータっていうのが膨大にあるんですね。

 

Society5.0っていうのは、そういう膨大ないわゆるビッグデータを、AI等を使って解析をする、そこで出てきた解析結果などをロボットや自動運転などに展開する、そして最後はその地域に住んでいる人たちにフィードバックされるっていうのが一番重要なことだと思うんです。

 

従って典型的な例は、やっぱり地域でのお困りごとの発見と解決ではないかなと。

 

全国の多くの自治体、特に地方は人口も減ってきていて、住人の方の年齢層がだいぶ高くなってきているので、常日頃生活していく上でのお困りごと、例えば、近場に色々なものを買うお店がないとか、あるいは今の時期雪が相当降っているので、それこそ単身高齢者にとってみると、屋根の雪下ろしすら大変で、屋根が潰れちゃうみたいな。

 

こういった様々なお困りごとがあるので、そういう地域の抱えている課題のようなものを解決する上で、テクノロジーをどう使っていくのかということになり、自治体関係者からしてみたら逆に言うと、地域の課題をどういう格好で発見し解決に向けて筋道つけていくのか、それがSociety5.0の社会ではすごく選択肢が多様になるということじゃないかなというふうに私は思います。
 



Society5.0の実現に向けて、行われている取り組み

現在、Society5.0の実現に向けて、国や地方自治体など、全国各地でどのような取り組みがされているのでしょうか?

 

[増田氏]
政府の方で内閣府にSociety5.0を推進する組織があるわけですが、今やろうとしているアプローチは、いくつかの先行する地域でSociety5.0がもたらす具体的な仕組み、社会実装ですけれども、要は具体的に作り上げていき、皆さんにまず見てもらう、それから体験してもらうということを進めています。

 

住民として体験してもらうということですが、自治体として何をするか、多くの自治体の関係者にもそれをトータルで見てもらう。

 

ですから最初の計画段階から社会実装に関係する人たちをそこに集めていって、色んな議論をした上で、どういう企業のテクノロジーをその中に入れていくかということですね。

 

具体的な地域で実行していこう、ということを今、政府の方で考えていると聞いていますし、それに向けて各自治体でも手を挙げるところがいくつかあって、例えば企業中心だとトヨタさんが富士の裾野市というところでですね、ウーヴンシティ(Woven City)というプロジェクトを今やろうとしています。

 

自治体で言うと会津若松市などは企業も一緒になって取り組んでいますが、これはだいぶ長い歴史があり、室井市長がスーパーシティのようなまちづくりを会津若松で実現したいということで動いていらっしゃいます。

 

今後、各自治体の考え方や色々なタイプで、こういうスーパーシティを実現し、それが言葉を変えると、Society5.0の社会ということになっていくのだと思います。

 

なるほど。

では、現在の社会的なフェーズとしては、各地域が色々なスーパーシティの形を各々で考え、そして作りながら実装していく、実験してくという段階ということでしょうか?

 

[増田氏]
はい。そういうことだと思います。
 



Society5.0の実現で、社会はどのような状態になるのか?

Society5.0、これが実現した社会というのはどういった状態になっているのでしょうか?

 

[増田氏]
これはもう本当にその年ごとにどういうものが実現されるかで変わってくると思います。

 

例えば、私が岩手県知事をしていた時の話で言うと、県内の良い別荘地に東京から定年後のご夫婦などが移住されるのですが、そういう人たちの話を聞くと真っ先におっしゃるのが、毎日快適で岩手山を眺めながら時には近場でゴルフをやれて凄く良いんだけど、病気になった時、体がちょっと不調になったときに身近にかかれる医療機関が少なかったり、一番気にしていたのは、重篤な病気になったりした時にどうすれば良いのかと。

 

やっぱり東京にある大病院なら安心できるんだけど、岩手の病院は大丈夫ですかね?と。盛岡にもこういう病院がありますよと言うのですが、非常に高度な手術になると、当時はそこには差があったわけで。

 

しかし今は、例えば遠隔医療でロボットダヴィンチなど色々なものがあって、がん治療でも体に小さな穴開けてそこで開腹手術しないでも的を絞って、そのがんの細胞を除去したりと色々できるわけです。

 

要は、高齢者の皆様が一番心配する健康、医療とかそういう面ですね、それについてSociety5.0で、本当に遠隔医療が日常茶飯事になれば、移住のハードルがぐっと下がります。

 

それと、特に地方では車移動をされる方が多いですが、高齢者の場合、80歳を超えたりすると暴走の危険があってですね、免許返上しようと。
しかし公共交通機関がなかなか近所にない、自動運転がもっと行き渡れば、物も取り寄せやすくなるし、多様な移動手段が手に入ると凄く楽になります。

 

医療分野だとか交通分野だとか、分野が分かれると思うんですけれども、様々な課題やお困りごとについての解決手段は今までとは格段に違った形で最適な問題解決の仕方ができる状態になると思います。

 

地方の話を最初にしましたけど、逆に都心部においても、例えば渋滞予測がビッグデータを使うことにより、従来の予測とは格段に精度が上がってくるでしょうから、地方だけの話ではなく、日本全国オールジャパンでSociety5.0の社会が実現されれば、我々の暮らしは革命的に変わってくることになるのではないかと、そういう期待感を持っています。

 

なるほど。
ということはSociety5.0の社会では、色々なメリットや恩恵を国民一人一人が享受できるが、地域とか年代ごとに感じるメリットなどは異なるという感じでしょうか。

 

[増田氏]
そうですね、地域、それから年代ごとに異なるでしょう。

 

例えば子供たちについての学校教育のあり方、今はコロナのため遠隔教育の必要性が言われてきてるっていう部分もありますが、もちろん対面の教育ってすごく重要だと思うのですが、国内にとどまらず、例えばハーバードなどの海外の大学の講義も結構聞けるようになってきています。

 

文系の授業だけじゃなくて理系の実験的なことについても、海外の大学では色々なことができてるんじゃないかと言われているので、日本の大学も変わっていくと思います。

 

今まさにおっしゃった地域それから年代の差で、このSociety5.0によって受けるいわゆる恩恵みたいなものは大分変わってくるんじゃないかなという気はいたします。
 




Society5.0、ズバリ後何年で実現できそうか

ゴール的な視点でいうとSociety5.0というのは、何年ぐらいに実現できそうかというのは感じておられますか?

 

[増田氏]
これはですね、今から少しずつ断片的に実現に向かって行っているという感じかと思います。

 

例えば先日、北海道上士幌町の町長に少しお話を聞いたのですが、公道で自動運転や、配送ロボットの実験を色々やっているようです。これは一過性の実験的な話ですけれども、この間政府に聞いたら、今年秋の臨時国会に、公道での自動運転などがやりやすくなるような法律を提出するらしいので、今年や来年からいくつかのものはどんどん実現に向けて進んでいくんじゃないかと思っています。

 

ただやっぱり、一番我々が恩恵を感じる状態、生活全般で自分のニーズがSociety5.0で満たしやすくなる状態の社会になるまでは、もう少し時間が掛かって5年とか10年。

 

やはり都市作りというのはそれなりに時間が掛かります。私は時々、このことについて自治体の人と話すのですが、やっぱり10年先の社会ではないかと。

 

ただし、10年間の間にテクノロジーの進歩で社会が革命的に効果的に進む、コロナでそこが加速されてくる可能性もありますね。10年経つと劇的に変わっている可能性があるので、今からそれに備えた議論を進めていく必要があるんじゃないかっていうことを言っています。
 



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