「Society5.0」、自治体は何をすべきか(後編)

今回の特別インタビューは、日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長で、元総務大臣の増田寛也氏に「Society5.0」についてお伺いをさせていただきました。
この記事を通して、自治体が果たすべき役割や、各々がどのような行動を起こすべきか。今回は前編に続き、後編をお届けいたします。

※前編はこちらから



Society5.0に向けて、積極的に取り組んでいる業界や進んでいる領域

段階的にSociety5.0へ向かっているというような言葉がありましたけれども、先ほどのお話にも出てきた自動運転MaaSや医療など、色々な業種や分野がありますが、今増田さんが、“積極的に取り組んでいる”あるいは“進んでいる”と感じる業界や領域を教えていただけますでしょうか。

 

[増田氏]
医療はやっぱり医師法の規制とか色々あるんですよね。

 

未来として描ける、考えられる世界というのははっきりしているのですが、現実には中々進みづらい。コロナの関係もあってSociety5.0に関心も移っているが、医療の分野は規制が多く、取り組みが少し遅いのかなという感じはしますよね。

 

一方で、移動の分野MaaSのようなもの、これについてはかなり色々な考え方が具体化されてきている感じがします。

 

それからあともう一つ、私も期待している分野があります。今回[自治体・公共Week]に来られる人たちの多くは、地方自治体の方が多いと思うのですが、今地方でもっともっと伸ばしたいと思っているのは一次産業、特に農業ですよね。

 

Society5.0の社会と現在との中間段階ぐらいの事例ですが、農協などの系統とはちょっと離れて活動している意欲的な若い農業者が、ハウスの中を全天候型にして季節を問わずミニトマトを育て、全く人手を使わずにカメラやセンサーでカットして収穫までしています。

 

それから昔は難しかった、キャベツやレタスの収穫も今は自動の収穫機で行っていますよね。

 

外国人の方を雇用したり、腰を屈めて作業する、そういうところからだいぶ違ったスタイルになってきているのは、農業分野の意欲的な農業者と、それを応援する企業が一緒になってやってきた結果だと思います。

 

ですので、私は農業分野には凄く期待をしていますし、スマート農業の様なところはどんどん進展してきていますね。
 



増田氏が考えるSociety5.0の実現に向けて大切なこと

現時点で増田さんの方で考えられるSociety5.0の実現に向けての課題や問題点というのがあれば教えていただけますでしょうか?

 

[増田氏]
企業はアイデアが沢山あると思うのですが、やっぱり実験して行くとなると地域でやらなければいけない。

 

そうすると自治体を巻き込んでやる、公道で実験をしていくという話になるとどうしても自治体行政と一緒になって展開しないといけないんです。

 

行政はこの部分でどうしても人材が不足しがちで、そこは一つの自治体だけではなく、地域全体でいくつかの自治体が協力する、それから人材についても、企業の知見のある人たちに柔軟に入ってやってもらうとか、そういうことが必要なんだろうと思います。

 

それとともに重要なのは、斬新なアイデア、特に何を実現したいかってあたりの自由な発想ですね。若い行政の人間と、実際にいろんな技術を知っている民間の人たちが上手くコラボすることが大事で、柔軟な発想や、それを受け入れる体制を自治体行政の中にいかに持ち込むかというのが今すごく重要かなと。

 

ありがとうございます。
企業側と自治体側、二つの視点とアクションの取り方があると思うんですけれども、自治体の方々はこのスマート社会の実現に向けてどういうようなアクションをしていくべきだとお考えですか。

 

[増田氏]
大きく二つあります。

 

一つ目は、今もやっていますが、国がスマート自治体を募集したり、様々な取り組みをして、国が音頭を取って全国に展開していく、デジタル社会実現に向けてデジタル庁の設置を進めていますが、自治体の方々はそういう情報などをいち早くキャッチし、地域全体、いくつかの自治体で協力し合って手を挙げていく。そういう取り組みが必要ですね。

 

二つ目は住民合意。個々の自治体で、住民に対してどの様に説明すれば取り組みの良さを実感してもらえるのか、また、住民の支持があれば自治体の予算をかなり振り分けることができます。

 

逆に、スマート社会やデジタル化は「自分たちとあまり関係ないな」、あるいは「個人情報だけ使われちゃうんじゃないかな」と思っているうちは反対論が出てきてしまいます。

 

住民に対して丁寧に説明をし、ステップごとにどのように進んでいくかをしっかりと伝え、進めて行く。まさにそういうアクションが重要じゃないかなと思います。

 

どうもありがとうございます。
その住民合意というところに紐づく質問なのですが、増田さんの著書の中の第6章の中で、「地域がいきる6モデル」について書かれていらっしゃいます。その本を読んで私が感じていたのは、Society5.0の社会でも、各地の目指すべき姿、型があると現場担当者の方も行動しやすいかなと思っていて、さっきのスーパーシティのお話でもありましたけれども、スーパーシティが地域の中心となり、その周りにいろんな都市、役割の都市があるとか、そういったところが必要になってくるのではないかと思うのですが、増田さんはどのようにお考えでしょうか?

 

[増田氏]
都市ごとの役割分担というのはこれから必要になると思います。

 

以前は人口が増えていて、分権論議などが凄く盛んな頃というのはすべての自治体を輝かせようということで、むしろ自治体一つ一つが自己完結型でフルセット主義、何でもそういう考え方で進めていたのですが、現在はそうじゃなくて今おっしゃったように中心都市とそれ以外の都市や町などが役割分担をして、それで機能を完結すること。

 

ここが中々難しいところで、中心都市だけが輝いて見えることになってしまうんですよね。

 

しかし、地域でSociety5.0を進めていく上では、自治体関係者が大人になって、Society5.0の様々な成果を周辺のいわゆる衛星都市みたいな地域にどれだけうまく配分できるかっていうことが大事。

 

そのためにも関係する自治体は少し高いレベルで議論し合う。「うちの自治体にとってはこれが良いのではないか?」と言う考え方ではなく、「住民にとってはこれが一番良いのではないか?」と言うような考え方で、しっかりと話をするということが大事じゃないかと思います。
 



Society5.0における、医療について

先ほど遠隔治療というお話が出てきましたが、遠隔治療ができる社会は理想的ですよね。
往診しなくても自宅で簡単に診断していただけるサービスなど、Society5.0の社会では実現するのかなと思うのですが、ただその一方で、PCやIoT製品を使いこなせないご高齢の方も多いのではないかとも感じています。そういった部分で、地域の遠方に住んでいるお年寄りの方々を自治体の方々が支えていくにはどういった取り組み・仕組みが必要だったりするのでしょうか。

 

[増田氏]
二つあって、健康面で言えば、お年寄りが寄り合いするような近場の公民館のような場所で、常日頃から簡単に自分の健康状態測れるようなツールを用意しておくことですね。

 

それから実際にお年寄りが風邪だとか、ご病気になったときの対応、検温ぐらいは皆さんできるわけですから、パソコンではなくてAmazonのAIスピーカーみたいなもので簡単に呼びかけて、検温した温度を伝え、具合はどう、こんな症状だ、ということをおっしゃってもらい、危ないなと思ったら病院の方や自治体の方が駆けつけるような、そういう仕組みになるんだろうと思います。

 

ご老人はどうしてもキーボードを前にすると抵抗感があって「これはもう無理」って最初から除外しちゃいますし、タブレットになると少し楽にはなりますが、できればやっぱりAIスピーカー的なもので、日常のことを喋るだけで、何か兆候が察知できるようになると良いですよね。

 

察知した後、自治体や病院がアクションを起こすところまで繋げられるように、テクノロジーの方も進化していってくれると良いなと思います。
 



Society5.0への対応、人口や予算が少ない地方自治体には不利な状況なのか?

Society5.0、こういったスーパーシティ化に対応していく上で、投資効率を無視することはできないというふうに思うのですが、人口や予算が少ない地方自治体にとっては不利な状況かなと感じます。そういった観点で言うと、地方自治体は近隣の自治体のみならずに遠方の自治体とも協力、ないしは合併などをすることが良いのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?

 

[増田氏]
自治体が、かなり遠方であっても広域で連携するというのはこれから何事においても大事だと思うんですよね。

 

それから、先進的なテクノロジーというのは主に都会で活用されるものみたいに思われがちなのですが、かなりの部分はむしろ地方での生活だとか、地方での企業の展開の可能性を伸ばすようなものであるわけです。

 

地方での生活を画期的に良くするテクノロジーや、考えたアイディアについては、全部をやるわけにはなかなかいきませんけれども、地域ごとに必要なテクノロジーであれば、分野を絞って、国がきちんと支援をしていく必要があると思います。

 

地方をどう支えるか、あるいは地方をどう使うか。コロナの影響で東京に何でもかんでも集中するのは非常にリスクが高いということが、首都直下型地震のリスク以上に尚更分かってきましたので、そうすると地方をどうするかっていうことですよね。

 

全市区町村に満遍なくという訳にはいきませんけれども、やっぱり分野を決めて、地域ごとに役割分担した上で、国もしくは大きな自治体が周辺の自治体をきちんと支援していくことが望ましいです。

 

上手い進め方、その実現の道筋が見えれば、あとは各自治体が自力でもやっていけるのではないでしょうか。取り組むための入り口、そこに凄く大きな障壁があるんじゃないかなというふうに思います。
 




最後に自治体関係者の方へ一言

10年20年先を見ると、AIとかロボティクスなどのテクノロジーを使って、いかにそれを使いこなし、住民に対しその成果を帰属させていくか、必ず社会が大きく変わっていくので、今ここの段階で様々な支援だとか色々な関心があるこの時期が凄く大事です。

 

今この時に意欲的に手を挙げて、まず自分の自治体で何かやってみようという意欲を出していく必要がある。

 

もう横並びでやる時代ではなくてですね、意欲ある自治体がどれだけ手を挙げられるか、ですから本当に若い柔軟な発想を持っている自治体職員が、思い切ってそういう試みや柔軟なアイデアを出して変えていく、先頭に立っていくべき。

 

そしてトップや首長は、若い自治体職員や新しい発想に対し、思い切って権限を委ねる、思い切って任せる、ということをやっていくと、良い方向に変わっていくのではないかなと思います。皆さんがそういう勇気を持つことじゃないかと思います。
 



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