地域包括ケアシステムをわかりやすく解説【事例つき】


▶監修・解説:北川哲也氏
補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。
2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。
●監修者の詳細な経歴はこちら



地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても住み慣れた場所で自分らしい暮らしを最後までおくれるように、地域が一体となり支援体制を構築する仕組みです。

 

地域包括ケアシステムにおける地域の範囲は、「おおむね30分以内にサービスが提供できる日常生活圏」とされています。中学校の校区区域と同等の範囲といえばイメージしやすいでしょう。こうした地域の包括支援センターやケアマネージャーが中心的な担い手となります。

 


地域包括ケアシステムの目的

地域包括ケアシステムの目的は、高齢者介護の主体を国から自治体に移行していくことです。少子高齢化が加速し、高齢者や要介護認定者は増える一方ですが、介護の担い手となる人材の育成や、施設の拡充は追いついていかないのが現状です。

 

こうした状況では、従来の国主体の施策だけでは不十分であるため、地域の力を存分に活かす必要が生じてきます。介護施設の不足も今後深刻化するでしょう。介護・ケアの場を従来の施設ではなく自宅にシフトしていくなど、医療・介護サービスの枠組みを再構築する必要が迫られているのです。

 


地域包括ケアシステムが構築された背景

地域包括ケアシステムが考案された背景には、急速に進む少子高齢化があります。なかでも「2025年問題」は象徴的です。2025年は、団塊の世代が75歳を迎え後期高齢者となり、本格的な超高齢化社会を迎えるタイミングです。

 

日本の総人口は減少するなか、後期高齢者の割合が増加していくため、今後も医療や介護の需要は増え続けるでしょう。リソースは逼迫し、十分なサービスが提供できなくなる恐れがあります。そこで目を向けられたのが、地域の力を活用した医療・介護サービスの拡充を目指す地域包括ケアシステムなのです。
 



地域包括ケアシステムは1980年代から取り組まれている

地域包括ケアシステムの概念は、1980年代に現在の広島県尾道市(当時は御調町)の取り組みが起源とされています。同市の公立病院が「寝たきりゼロ」を目標に掲げ、医療・行政が連携した実践的な施策を推進します。その取り組みを「地域包括ケアシステム」と呼んだのがはじまりです。

 

2000年には「介護保険制度」が開始され、高齢者支援は医療・介護・福祉に加え、生活支援サービスの連携も必要であるという気運が高まります。2014年には、地域包括ケアシステムの考え方が具体化された政策として、「医療介護総合確保推進法」が施行されました。
 



地域包括ケアシステムを構築する4つのメリット

地域包括ケアシステムを構築することにより、要介護となった高齢者が尊厳を保ち、自立して暮らせるようになります。施設や病院ではなく、住み慣れた自宅で過ごしたいと考える高齢者は多く、その意思を尊重できることが、大きなメリットといえるでしょう。

 


医療ケアが必要な高齢者が自宅で過ごせる

地域包括ケアシステムが機能することで、在宅医療を提供する医療機関と介護サービス事業者の連携が深まります。そうすることで、要介護者は自宅にいながら、一貫した質の高い医療と介護の提供を受けられます。

 

従来は医療ケアが必要な高齢者は入院の必要があり、在宅での介護はかなりハードルが高いものでした。地域包括ケアシステムにより、医療と介護の連携が深まることで、在宅医療の基盤も整備されていくことになります。

 


高齢者の社会参加が促進される

地域包括ケアシステムでは、高齢者を2つの側面で捉えています。支援を受ける側の高齢者と支援を提供する側の高齢者です。比較的元気で体も動く支援をする側の高齢者には、老人クラブやボランティアなど、積極的に社会参加をしてもらいます。

 

そうした活動を通じて社会とのつながりを深め、「生きがい」「生活のハリ」を感じてもらうことは当人の介護予防にも役立ちます。地域包括ケアシステムは、高齢者が地域のなかで役割を持ち、自分らしく生きるための一助となるでしょう。

 


地域独自の課題に対応するサービスが生まれる

地域包括ケアシステムが機能し始めると、地域特有のニーズに対応する細やかなケアができるようになります。例えば「買い物」や「見守り」などの生活支援も、農村部と都市部では形態が違ってくるでしょう。

 

要介護者の状態によっても、必要とされるケアは違ってきます。地域単位で細かく対応していくことで、こうしたニーズに細やかに対応でき、介護が必要な高齢者の生活の質が向上していくのです。

 


家族の負担を軽減しつつ認知症の高齢者が自宅で過ごせる

地域包括ケアシステムとともに、認知症患者を地域でケアしていく取り組みも活発化しています。こうした動きは、「認知症サポーター」や「認知症カフェ」などが増えていることからもみてとれます。

 

認知症サポーターとは豊富な知識を有し、地域において認知症患者や家族をサポートする役割を担う人です。認知症カフェはこうしたサポーターや患者・家族が集い、情報や悩みを共有する場です。こうした取り組みが活性化することで、認知症患者と支える家族が孤立せず、自宅で穏やかに過ごせるようになるでしょう。
 


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地域包括ケアシステムの基本的な考え方

地域包括ケアシステムの基本的な考え方は、「5つの構成要素」から成り立ちます。この5つの構成要素を地域の特性とニーズに合致した形で作り上げていくことが、効果的な地域包括ケアシステムの構築には欠かせません。

 

そして、その根底にある理念が「4つの助」であるといえます。

 


地域包括ケアシステム5つの構成要素

地域包括ケアシステムの5つの構成要素は、「住まい」「生活支援」といった基本的な「生活」に関わる要素と、「医療」「介護」「予防」といった専門的な要素から成り立ちます。これらが密接に関わりあうことで有機的なつながりが構築され、上手く機能していくのです

 

□医療

地域包括ケアシステムにおける医療は、日常と緊急時の2つの側面から考えなくてはなりません。日常的な医療は、「かかりつけ医」や地域の「連携病院」が担います。大きなけがや入院が必要な病気など緊急時の医療は、「急性期病院」が担うことになります。

 

両者の連携をスムーズにするには、地域における医療機関どうしで、情報共有を密に行うことが必要です。両者が垣根のない連携を深めることで、在宅から入院・入院から在宅へという切り替えが上手くいくようになります。

 

□住まい

地域包括ケアシステムにおける「住まい」とは、自宅だけでなく介護施設等も含まれます。つまり、要介護となった高齢者が、最期を迎えるまで過ごす場所のことです。住まいは生活の基盤であり、地域包括ケアシステムの根幹をなすものともいえます。

 

単に住む場所を提供するだけでなく、賃貸契約時の「保証人」を手配するといったことまでが含まれます。住む場所に困った高齢者には、高齢者住宅の拡充や、空き家の有効利用などにより、住まいを提供していくことが有効な策となるでしょう。

 

□介護

「介護」は、在宅系介護サービスと施設・居住系介護サービスの2つに分類されます。在宅系介護サービスとは、訪問介護や訪問看護など、必要に応じて在宅生活を支援するためのサービスです。

 

これに対し、施設・居住系介護サービスは、特別養護老人ホームや介護療養型医療施設に加え、より地域に密着した小規模多機能型居宅介護といったものがあります。これらのサービスは途中で切り替えることも可能です。在宅介護では対応しきれなくなり、施設への入居に変更するといったことは、想定される流れといえるでしょう。

 

□生活支援

要介護となった高齢者が自宅で過ごすには、適切な生活支援は欠かせません。買い物支援や見守り、配食や安否確認といったものが挙げられます。高齢者が安全かつ快適に生活するためには、こうした日常的な支援が必要です。

 

生活支援は医療や介護と違い、専門知識は必要ありません。自治体や老人会、ボランティアやNPO法人が支援に着手しやすい分野といえます。地域住民にも積極的に参加を呼びかけ、参加を促していくことが必要です。

 

□予防

「予防」は地域包括ケアシステムの本質となる部分です。要介護状態を未然に防ぎ、健康な状態を維持することが、在宅生活をより長く続けるために、もっとも必要なことであるといえます。社会参加の一環として、高齢者に要介護者の生活支援に携わってもらうことも、十分な介護予防になっています。

 

介護予防サービスが充実すれば、要支援1・要支援2といった軽度の要介護状態であれば、快適な在宅生活をおくることは十分に可能となるでしょう。

 


地域包括ケアシステム4つの助

地域包括ケアシステムを構築する基本的な考え方「4つの助」を解説します。

この「4つの助」は、国により制度として定められた支援と、自身や周囲の人々の自発的な支援により成り立っています。

 

 


自助
自発的に介護予防に取り組み、自身で生活課題を解決する力


公助
制度化された生活困難者への支援(税によって成り立つ)


互助
家族や知人、ボランティアなど、周囲の人々の自発的な支えあい


共助
制度化された社会保障制度(医療・年金・介護保険など)



国の制度としての、「公助」「共助」は、今後さらに加速する高齢化社会においては、十分な拡充は難しいと考えられています。そこで必要になってくるのが、自身と周囲の人々による支えあいです。実効性のある地域包括ケアシステムの構築には、「自助」と「互助」へのアプローチが重要であるといえます。
 


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【事例紹介】地域包括ケアシステム各自治体の取組

ここでは、厚生労働省のホームページより各自治体の取り組みを紹介します。

 


東京都世田谷区

東京都世田谷区の取り組みは、都市型の地域包括ケアシステムの一例です。区独自に全高齢者実態把握調査を実施したところ、一人暮らしまたは高齢者のみの世帯が約半数超であると判明しました。

 

同区の取り組みの特徴は、地域包括ケアシステム5つの構成要素をバランスよく取り込み、それぞれの連携を強化した点です。医療分野では、在宅医療の充実に向けた体制作りとして、ケアマネージャーと医師で構成する協議会を発足させるなど、連携強化に努めています。


新潟県長岡市

長岡市の取り組みの特徴は、地域において完結する支援体制の構築です。長岡駅を中心に13ヵ所のサポートセンターを設置し、各サポートセンターで、医療・介護・住まい・予防・生活支援などのサービスを一体的に提供できる体制を作りました。

 

同市の取り組みは、地域住民の理解を得るための創意工夫を重ねている点が印象的です。小規模多機能型居宅介護事業所を町内の祭りの休憩場所に提供することで、地域住民との交流を深め協力体制の構築に成功しています。


鳥取県南部町

南部市の取り組みの特徴は、軽度の要介護者や低所得者向けの住まいの拡充を図り、高齢者の居場所を確保し孤立を防いでいる点にあります。空き家を借り受け改修することで、費用を抑え低所得者にも利用しやすい料金設定の共同住宅を提供しました。

 

こうした住まいの拡充とあわせ、必要に応じた医療・介護サービスや、互助による配食、見守りサービスの支援を提供するなど地域に密着した支援を行っています。


千葉県柏市

千葉県柏市では市が主体となり、医師会をはじめとした様々な職種との連携を深めることで、在宅医療推進と医療と介護の連携を図りました。医療・介護・看護の関係団体が、多職種連携のルール整備を進め、高齢化に備えた地域づくりを目指すものです。

 

具体的には、主治医・副主治医制度の構築、医療・看護・介護の連携体制の確立、在宅医療に携わる診療所や訪問看護の充実に取り組んでいます。またこれらを実現するために、人材の育成や、地域医療拠点の整備に着手しています。


三重県四日市市

四日市市では、社会福祉法人が主体となり、地域住民・自治会と連携することで、高齢者の生活支援拠点を新設しました。高齢者の見守りや生活支援に対策の必要性を感じていた「社会福祉法人青山里会」は、高齢者が多く暮らしている団地の中心にある「空き店舗」を活用し、孤立化防止拠点の整備を図ります。

 

その取り組みに呼応する形で、地域住民・自治会が中心となり住民組織「ライフサポート三重西」が発足します。両者の相互連携のもと、配食や買い物支援などの日常生活支援サービスを安価に提供できる体制を構築しました。


大分県竹田市

竹田市の取り組みの特徴は、介護予防の推進に特化している点です。介護保険外のサービスを利用して、高齢者が自立した生活ができる支援の構築を目指しました。

 

暮らしのサポートセンター・久住「りんどう」を立ち上げ、様々な通所型の予防サービスを展開しています。地域コミュニティの拠点としても機能し、皆が「支援者」であり「利用者」でもあるという考えのもと、地域で助け合う「互助」が広まるきっかけにもなっています。


熊本県上天草市

天草市湯島地区では、高齢化率50%と高い状態でありながら、離島という地理条件の悪さから介護サービス事業所がありませんでした。島に住み続けたいという高齢者の希望も強く、地域の実情に応じた介護福祉サービスの基盤づくりが強く求められます。

 

まず、65歳以上の単身世帯に、緊急通報システムを導入し見守り体制を強化しました。加えて地区内で11名のヘルパーを養成し、介護予防事業に従事してもらいます。こうした体制を整えつつ、介護サービス事業所の開所を目指しています。


埼玉県川越市

川越市の取り組みは、認知症患者とその家族の支援に特化したものです。認知症に関する正しい知識の普及や、認知症患者の介護者に対する支援、検討会における現場の声を反映した施策の検討などを行っています。

 

具体的には、地域包括支援センターが中心となり、「認知症家族介護教室」(3回1コース)の開催や、「オレンジカフェ」と称する交流会を月に1〜2回開催するといった取り組みがなされています。


鹿児島県大和村

大和村では、住民が主体となり個別の取り組みを発案していく形で、希薄になりつつあった地域のつながりを取り戻しつつあります。離島という地理条件もあって、全国平均を超える高齢化率となり、かつてのような互助が発揮されないケースが増えていました。

 

「誰もが気兼ねなく支えあう生活支援サービスの基盤づくりが必要」、と考えた地域包括支援センターが中心となり、住民を募り「地域支えあいマップ」の作成に着手します。こうした取り組みがきっかけとなり、住民主体の介護予防・生活支援の取り組みが活発化しました。


鳥取県境港市・米子市

境港市・米子市の取り組みの特徴は、特別養護老人ホームの運営法人が持つノウハウを、地域の拠点に展開していった点にあります。同地区には、高齢者が居住する地域に介護サービス拠点が少ないといった課題がありました。

 

こうした状態を改善すべく、小学校に隣接するなど地域のなかに介護拠点を新たに設置します。特養の施設職員のノウハウを活用し、24時間定期巡回・随時対応サービスが実施可能な体制を整えていきました。



地域包括ケアシステムの構築に向けた課題

くの事例を見てきて分かる通り、地域包括ケアシステムは簡単に構築できるものではなさそうです。各地域とも創意工夫・試行錯誤を繰り返し、現在の形を作り上げてきたことが分かります。

 

地域の高齢者問題の解決に向けた、地域包括ケアシステムを有効に稼働させるためには、以下に挙げる課題は、最低限克服する必要がありそうです。

 


医療・介護の連携不足

要介護の高齢者が住み慣れた自宅で暮らし続けるには、在宅医療・在宅介護が適切に機能しなければなりません。そのためには両者の連携が不可欠ですが、まだ十分に体制が整っているとはいい難い状況です。

 

夜間や早朝・緊急時の対応が未整備であり、今後は医師や看護師、介護職が連携して動ける情報共有の仕組みとルール作りが急がれます。
 


地域によって構築や浸透に格差が生じる

地域包括ケアシステムの構築は、各市町村に委ねられます。確保できる財源や人材・ノウハウにもばらつきがあるのは当然です。こうした状況では、提供されるサービスの量や質に、地域間の格差が生じることは否めません。

 

地域包括ケアシステムを浸透させていくためには、住民に向けた啓蒙活動が不可欠です。こうした活動に割けるリソースも市町村によって格差があり、浸透度合いに差が生じてしまうのです。
 


高齢化にともなう人材の不足

在宅介護を推進していくには、要介護高齢者の日常生活の支援に多くの人手が必要になってきます。しかし、現状あるいは将来にわたって、人材が充足するとは考えにくい状況です。

 

各自治体は、人員確保の取り組みを最優先で行わなくてはなりません。ボランティアやNPO法人、民間企業からの協力のとりつけや、元気な高齢者の社会参加を促すなど、重点的な施策が必要です。



まとめ:地域包括ケアシステムを構築し高齢者が安心して暮らせる街づくりを

本格的な超高齢化社会を迎えるにあたり、要介護高齢者が尊厳を保ちつつ、安全に暮らせる環境の構築は喫緊の課題となりました。地域包括ケアシステムの構築は、高齢者が安心して暮らせる街づくりには欠かせないものです。

 

地域包括ケアシステムが成果を上げるには、地域の現状や課題を把握した、的を射た施策が必要です。あわせて、地域住民の助け合いである「互助」の精神を育むことで、施策の浸透につなげなくてはなりません。両輪での取り組みが求められるのです。
 



▶監修・解説:北川哲也氏

補助金や許認可の手続きを専門とする行政書士事務所Link-Up代表 北川哲也氏。

2011年に29歳で開業し7年間個人事務所として中小企業向け行政書士サービスを展開。2018年春に株式会社Link-Upを立ち上げ、士業サービスでカバーしきれないコンサルティングや顧問サービスをスタート。公益社団法人茅ヶ崎青年会議所の2021年度理事長や認定NPO法人NPOサポートちがさき参画など活動多数。




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